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美容医療の相談・苦情は「医療脱毛」から「リフトアップ」へ

[ 2015/3/12 ]



 頬にヒアルロン酸注入をしようと思いクリニックに行ったが、「注射よりも効果のある顔のたるみ取りをしませんか?今ここで決めれば半額でいいですよ。翌日の仕事にも支障はないです」と言われた―。こんな相談など、ここ数年美容医療に関わる苦情件数は増え続けている。本紙取材班は、全国で最も多い件数を抱える東京都消費生活センターを訪ね、その実態に迫った。


他府県を圧倒する相談・苦情件数

東京都消費生活総合センターによると、平成25年の都内の美容医療関連の相談・苦情で最も多かったものは「リフトアップ」関連だったという。リフトアップの相談・苦情は一昨年までは年間20件にも満たなかったが、平成24年に40件程度と倍増し、25年にはなんと116件にも上った。さらに、26年上期はすでに97件の相談・苦情が来ており、25年の件数を上回るのはほぼ確実とされる。
消費生活に関する全国の相談、危害情報のとりまとめやそれに基づく統計データの解析そして情報提供は、独立行政法人 国民生活センターが担う(所轄官庁は消費者庁)。
中でもその件数が他府県を圧倒するのは東京都であることは言うに及ばない。
東京都では美容医療サービスの相談・苦情対応の専任チームがいるほどで、きめ細かな実態調査も毎年行っている。
こうしたなか取材に応じてくれたのは東京都消費生活総合センター相談課長の阿部耕治氏である。


平成25年は「リフトアップ」急増

東京都消費生活総合センターでは、「美容医療」の定義として、脱毛、脂肪吸引、二重まぶた手術、包茎手術、審美歯科など疾病治療が目的ではない、身体の美化を主目的とした医療サービスとしている。
美容医療に関する相談件数の推移としては、とりわけこの3年増加しており、平成24年457件、25年597件、26年上期319件という数字だ。25年でいうと、東京都全体の相談・苦情件数が約127、000件であるから全体の0.5%程度となる。割合でみると少なく感じるかもしれない。しかし先述のとおり美容医療サービスの専門チームを4人体制で敷いている事実から、いかに美容医療サービスの相談・苦情への対応を重視しているかが伺える。専門チームがあるのは東京都の消費生活者センターのみで、全国のセンターから美容医療の相談への対応方法や事例についての問合せが入ることもあるという。
美容医療に関する相談者の男女比は2:8で、圧倒的に女性が多い。年齢層は20~30代で50%以上ではあるが、ここ数年で40代以上の女性からの相談も増えてきている。美容医療サービスにおいて、アンチエイジング治療、若返り治療が広まってきたことも一因だろう。
治療別の相談内容でいうと、前述のとおりここ1、2年でリフトアップに関する相談が急増している。要因はいくつか指摘されるが、昨年、大手美容クリニックにおけるフェイスリフト治療の集団訴訟などの影響も大きい。
ちなみに平成23年までは医療脱毛への相談が最も多く、平成24年は182件だったが、25年上期は40件程度にまで減少している。


脱毛5回コースの途中なのに、クリニックが閉院?!

相談内容として最も多いのは「施術不良」に関する相談だ。そもそも結果がよければ苦情にはならない。結果が悪い、もしくは結果がないからこそ、こういったセンターへ相談が持ち込まれる。
人の心理として、結果が悪いから「カウンセリング時の勧誘がしつこく感じた」り、「相談したものと別の治療を進められた」「今日なら安いからといって強引に当日治療をさせられた」という気持ちになる。
「施術不良」以外では「解約」「返金」に関する相談も多い。これは長期契約が必要な治療において多く見られる。特に多いのはやはり医療脱毛で、「内容がよくわからないまま契約してしまった」「最初の説明が不十分だった」というものが多いという。
さらに昨年は、クーポンサイトで見つけたクリニックで脱毛の5回コースを契約したものの、施術を終える前にクリニックが閉院してしまったという事例もある。内容としては、脱毛に数回通ったところで突然「閉院のお知らせ」のはがきが届き、対応窓口に電話をかけてもつながらず、保健所に問い合わせをするとすでに閉院届が出されており、何度も電話をかけてみたものの結局返金の交渉すらできなかったというものだ。
「医師=安心」と思い、閉院することはないと感じている消費者も多いが、クリニックも経営困難により閉院することがある。この場合、閉院後の返金請求は難しいため、同センターでは、契約内容やクリニックについて疑問を感じたらまずは最寄りの消費生活総合センターに相談するように啓蒙しているという。
また美容医療の危害被害としては、「皮膚障害」が最も多い。レーザー脱毛や美肌などレーザー治療が増えたため「水ぶくれができた」「傷が残った」「火傷した」などの相談が増えているためだ。切開を伴う外科手術等と比較すると簡単で短時間で終わるレーザー治療であるが、消費者からこのような相談・苦情数は増えている点には注意を払う必要があるだろう。


患者の同意ありきの医療サービスを

美容医療サービスもかなり低価格になり、クリニックの広告はエステのような気軽で華やかなイメージのものが増えてきた。消費者もエステと同じような感覚になり、割引やキャンペーンという言葉につられ、カウンセリング当日に施術を受けてしまうケースが増えているという。
だが、どんなに手軽でも低価格でも、医療サービスであることには変わりはない。消費者がそういった意識を持つことはもちろん大事ではあるが、美容医療サービスを提供する側の人間も、こういった相談・苦情を減らそうとする意識が必要だ。
そのためには、本紙ではたびたび報じてきたが、JAASや教育部門のJAASアカデミーが主催するライブフォーラムやライブ講習会、解剖トレーニングなどにみられるように、施術者の徹底したスキルアップのための研修や症例検討・交換会などが求められる。そして術前に治療方法についての説明を徹底すること、さらに考えられるリスクについても説明することなどの詳細なインフォームドコンセントが重要である。
同センターの阿部氏によると、相談内容の中には、「白衣を着ているので医師かと思ったら本当は普通のスタッフで、施術説明というよりも、とにかく勧誘をされた」というものも複数あるという。
クリニックのノルマ達成のために営業や勧誘は大事ではあるものの、施術者が望まない医療サービスを提供していては本末転倒である。事前説明をしっかり行うこととあわせ、消費者が合意する医療サービスを提供するという当たり前のことも忘れてはならない。
日々治療を行っていると錯覚を起こす医師もいるのかもしれないが、美容医療はエステではない。れっきとした医療サービスである。ごく当然のことを忘れてないか、もう一度考えてほしい。

◎JAASアカデミーでは第2回春季公開講座(6月28日開催)プログラムに、同センター担当窓口の演者を予定している。


(JHM125号より)

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