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ダーマルフィラータイプのポリカプロラクトンの安全な使用法 池田欣生MD 森川一彦 MD(東京皮膚科・形成外科)

[ 2013/12/13 ]
はじめに
現在の世界の美容医療ではボツリヌストキシン製剤やフィラーなどの非侵襲的治療が人気となっており、市場は拡大している。一度フィラー製剤で満足した患者は出来るだけ長い持続期間を希望する傾向にあり、その希望に応えてコラーゲンからヒアルロン酸、ハイドロキシアパタイト製剤とより持続期間を長くするフィラーが次々と開発されていった。生体内で代謝されずに残存するタイプのフィラーも開発されたが、皮膚癒着や皮下移動などの合併症を起こす場合があり、注意を要する。ポリカプロラクトン(PCL)製剤は生体内で完全に代謝されながら、分子鎖の違いにより持続期間を最大2年以上にできるというユニークな注入材料であり、現在存在する吸収性フィラーの中では持続期間が最も長い。今回我々はポリカプロラクトン製剤とその使用経験につき報告する。

ポリカプロラクトン製剤について

ポリカプロラクトンは吸収糸やサージカルメッシュ、創傷被覆材にも使用される一般的な医療材料である。電子顕微鏡では粒子の大きさは25〜50㎛で粒子の表面はスムーズで形は丸い。
ポリカプロラクトンは生体内で水と二酸化炭素に代謝されるため、再生医療などのScaffoldとしても利用されている。ポリカプロラクトンは分子鎖の違いで溶解されるスピードを変えることが可能である。短い分子鎖の物は早く代謝され、長い分子鎖の物は代謝のスピードが遅くなる。
今回は現在のところ世界で唯一のポリカプロラクトン注入製剤である「エランセ」(以下エランセ)について述べる。
エランセは、分子鎖の違いにより、1年〜4年と持続期間を変えることが可能であることと、ヒアルロン酸製剤と違ってそれぞれの製剤の粘性に違いはないため、どの持続期間の製剤も同じ内径の針で注入することが可能である。
エランセはハイドロキシアパタイト製剤のゲルキャリアでもあるカルボキシメチルセルロース(CMC)70%とポリカプロラクトン30%の注射製剤であり、2007年にオランダで開発されてCEマークを取得、世界20か国以上で認可を受け、2012年には韓国KFDAでも認可された。しかし我が国では、厚生労働省の認可はまだ下りておらず、本邦においての使用経験の報告はほとんどない。

カルボキシメチルセルロース(CMC)について
エランセは適度粘性を保つためにCMCジェルキャリアを使用している。CMCはスカルプチュラ(Sculptra™)やレディエッセ(Radiesse™)などの他のフィラー製剤やアクアセル(Aquacel™)などの創傷被覆剤などにも使われている。セルロースと水とグリセリンから成る基剤である。FDAでGRAS(Generally Recognized as Safe)として安全であると認められており、こちらも生体内で完全に代謝され尿中に排泄される。

従来のフィラーとの違い


エランセは生体内で代謝されながら周囲組織に刺激を与えて約50%はコラーゲンに置き換わる。
一方、製剤が少し柔らかいのと、施術直後に腫れや発赤を起こすことがあるために、十分なインフォームドコンセントを要する。また、ヒアルロン酸製剤と違って溶解剤がないため、万が一アレルギーなどのトラブルを起こした際には数年ほど待つしかない。以上の理由により、我々は眼瞼や鼻根部などの皮膚が薄い場所を避け、こめかみや頬や顎など、皮膚および皮下組織の厚い場所のみにエランセを使用するようにしている。また、初回には1年タイプまたはヒアルロン酸製剤を使用し、その結果に満足された方のみに持続期間が長いタイプを選ぶようにしている。

痛みと内出血を避けるために

施術される患者が最も気にすることは、施術結果は当然のことながら、痛みとダウンタイムであろう。エランセは他のヒアルロン酸製剤に比べて痛みを伴うため、注意が必要である。我々の施術では注入前にde Meloらの報告に準じてエランセ1ccにつき0.1cc〜0.2ccの2%E入りキシロカインをミキシングしている。その結果㏗は7.1〜7.2となり、ミキシングにより多少粘性や弾力性、組織を持ち上げる力は下がるが、施術後の痛みや腫れを軽減させることができる。ミキシングの方法について図4に示す。
また、内出血を避けるために注入する針にもこだわっている。神経や血管への損傷を避けながら骨膜上に安全に注射するために局所麻酔下に25Gのマイクロカニューラを用いて注入を行う(図5)。マイクロカニューラを使用すると血管内に注入物が入ることによる皮膚壊死を防ぐことができるため、エランセのみならずフィラー注入の際に多用している。

注入の場所について
エランセの注入部位は額、こめかみ、鼻、頬、法令線、顎周囲、そして手背があるが、前述したように我々は合併症を避けるために頬、法令線、顎周囲など比較的皮膚や皮下組織が厚い場所の深部組織のみに用いている。今回はヒアルロン酸では比較的吸収が早いため相対的にエランセの患者ニーズが高いと思われる顎および口周りの施術につき解説する。

顎および口周りの加齢変化について

年齢とともに奥歯はすり減り、顎の位置は前上方に移動する。若年者と比べて前歯で物を噛む傾向が強くなるために前歯は前突気味となり、それに応じて唇も前突する。また、歯槽骨下部の下顎骨も萎縮していく。基本的に加齢とともに顎先と歯槽骨下部の骨吸収が進み、二次的に起こる顎のたるみを気にする患者が多いために我々は歯槽骨下部の下顎緑とオトガイ部にエランセを注入することが多い。

注入の方法
1%E入りキシロカインでマイクロカニューレの刺入孔となる第1大臼歯下部と下顎中央の皮膚に麻酔を行う。先に局所麻酔を行った部位に25Gマイクロカニューラで下顎全体を図7のような若い下顎骨に近づけるよう、頭の中でイメージしながらエランセを注入する。カニューラを一度深部まで刺入して引き抜きながらゆっくりと注入すると顔面動静脈内への誤注入を防ぐことができる。
エランセは可塑性があるため、注入後にある程度は形態を用手的に変えることが可能である。ある程度注入を終えた後、患者を座位にさせて最後33G針で微調整を行う。口唇をすぼめてもらい、動きがある時に出現するしわの深くに少量エランセを注入すると、動きがある時のしわも防ぐことができ、患者満足度は高い。当然であるが、エランセには溶解剤がないため、入れ過ぎには常に注意をする。
エランセはヒアルロン酸に比べて発赤や痛みを伴うことが多いため、真皮から出来るだけ離れた部位に注入する方が患者の満足度は高い。刺入孔に軟膏を塗布し、点滴用の絆創膏を貼り、処置終了とする。施術後の圧迫などは行っていない。
本症例の術前と術直後の状態を示す。

最後に
よりダウンタイムが少なく、より持続期間が長いフィラーを患者は望んできたし、今後もその要求に応えて様々なフィラーが開発されていくであろう。
しかし加齢とともに頭蓋骨の形態は変わって行くため、半永久的に残るフィラーやシリコン、ゴアテックスなどを使用すると数十年後に材料が移動し、いわゆる「整形崩れ」を引き起こすことになる。シリコンの場合は移動しても除去することができるが、非吸収性のフィラーやゴアテックスは周囲の組織に癒着して除去が困難な場合も多い。長期的にみても合併症を引き起こさないよう、完全吸収型のフィラーを使用することが望ましいと考えている。
エランセはその全ての要求を満たしている次世代型フィラーであり、とても期待できる注入材料であるが、痛みを軽減し、より粘性を高めるなど、今後の進化にも期待したい。
(全日本病院出版会 PEPARS No.81より)


(JHM114号より)
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