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第5回 カルシウム配合サプリメントは、心筋梗塞と心血管系障害の発症率を高める[JHM]

[ 2011/8/9 ]
学術論文、研究報告にはさまざまな研究者の視点と多くの識者の考察が欠かせない。時には、その研究課題が純粋な探求目的から逸脱し、あらかじめ想定される何らかの意図的な仮説に符号するような結論を導き出す大規模試験もあるようだ。アンチエイジングや補完代替医療、さらには美容医療における研究発表、報告ではそうしたことがあってはならない。本稿では、AIFN*(1)の協力を得て、この研究分野に焦点をあて最新のレポートに対する真摯な議論の場として研究主題に対するコメントを取り上げていく。第5回目は、カルシウム配合サプリメントと心筋梗塞、心血管系障害の関係についての研究報告がテーマとなる。

【研究報告】
カルシウム配合サプリメントが、心筋梗塞と心血管系障害(イベント)の発症率を高めるというメタアナリシス報告

【著者】
 Bolland M, Avenell A, Baron J, et. al.

【掲載誌】
BMJ. 2010; 341:c3691

【研究報告の要旨】
公表されたカルシウム配合サプリメントのヒト無作為対照比較試験を再評価した。多くの報告から最終的に選択された15件の報告についてメタアナリシスを実施した。その結果、カルシウム配合サプリメントを摂取している40歳以上のヒトで、心臓障害(アタック)が30%増加していることがわかった。

【反論: ADSA *(2)科学グループ アラート・サービス(ISAS)】:
カルシウムは、骨の正常な形成と良好な状態の維持に必須のミネラル成分である。カルシウム配合サプリメントは、毎日の必要摂取量を達成するために、食事からのカルシウム摂取量を補うという重要な役割をしている。
この報告は、予備的な見解にすぎない。それ故に、消費者によるカルシウム配合サプリメント摂取は、現在の推奨に基づいて継続すべきである。

またこれらの研究には限界がある。特に試験の当初の計画では、心血管系の主要な最終評価点を評価項目として、計画された報告はない。メタアナリシス固有の限界と合わせて、心臓に対する良くない影響とカルシウム配合サプリメント結び付ける結論は言い過ぎである。
本報告に関するCRN(米国栄養評議会)のDr.Andrew Shaoの見解は次のとおりである。
メタアナリシスは、科学的評価に関する有用な手法である。一方、その限界も認識しなければならない。そして、得られた見解は、異なる研究計画、摂取量および対象ヒト集団で実施された過去の研究データを寄せ集めた結果に基づくものであることを念頭においておくことである。この解析結果に基づいて消費者、特に、カルシウム配合サプリメントを摂取している若い女性に摂取を控えるように説明するべきではない。彼らは、現時点での必要摂取量と長期間摂取の必要性について、かれらの家庭医とどの程度食事およびサプリメントすなわちビタミンDと合わせて摂取すべきかを相談すべきである。

メタアナリシス手法には、多くの本質的に主要な欠点がある。本報告で検討された15件のメタアナリシスは、主要な結果および摂取されたカルシウムの種類はいずれもかなり多様である。
メタアナリシスは、カルシウム補給におけるデータの全体像を反映していない。本報告における統計的なメタアナリシスに最終的に選択された研究は、非常に限られたものである。当初は、関連する190件の報告が検討されたが、最終的にメタアナリシスに使用された報告は、わずか15件に過ぎない。

ビタミンDとカルシウム配合サプリメント摂取者を対象にした研究は除外された。
主要な最終評価点として心血管系への影響を計画した試験はまったく含まれていない。実際に、検討対象にされた15件の研究は、多様な主要最終評価点を設定している。例えば、結腸直腸ガン、多様な部位の骨密度および骨折の発症率である。

メタアナリシスに採用された15件の研究のうち7件については、心血管系の評価結果に関するデータが不完全か欠如していた。その数は、研究対象者全体の15%に及ぶ。さらに、15件の研究のうちすべての心血管系の最終評価点を検討したのは全体のわずか5%にすぎない。
心血管系の評価結果に関するデータが、標準化された方法で収集されていない。心臓障害のリスクに関連する既知の交絡因子についての適切な説明がされていない。例えば、表2に示された11件の研究のうち5件で現在の喫煙習慣に関する情報がなかった。

15件の試験で使用されたカルシウム配合サプリメントは異なる商品で、摂取量も異なっている(炭酸カルシウム、クエン酸カルシウムおよびラクトグルコン酸炭酸カルシウム)。なお、摂取量の範囲は、0.5 – 2 gである。

一方、得られた結論は、他の年齢層には適用できない、まして骨の損失を防ぐためにカルシウムを補給している若い女性には適用できない。
別の考察として、カルシウム摂取を一度に摂取するのではなく、何度かに分けて摂取する(通常の摂取方法)という考え方がある。この方法では、血清中カルシウムの急激な変化を避けることができるだろう。本報告では、対象者は、70 – 79歳で、総計で800 mgのカルシウム摂取量で、試験開始時のカルシウム配合サプリメント摂取者の比率は、1.2 %である。人生の後期に血清カルシウム量の劇的な変動がおこる。すなわち、腎臓がすみやかにカルシウムを血液中から細胞中に移行させない可能性がある。その結果、より高い血清カルシウム量の状態がおこる。

*(1)AIFN:消費者に対して栄養補助食品の正しい知識と科学的根拠を発信する団体で、国内外の企業が加盟する。
*(2)IADSA:健康補助食品業界団体国際連合会の略称で、世界の栄養行政や制度の決定に、多大な影響をもつRegulatryscienceを求めていく団体である。



(JHM100号より)
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